高校時代によく読んでいた小説家、梶井基次郎。
代表作「檸檬」は高校国語の教科書に載っており、暗鬱で繊細な世界観は、当時の自分を夢中にさせた。
主人公の行動、心情のひとつひとつに強い共感を感じたのを覚えている。
10代のそれなりに悩み多き時期に梶井基次郎がヒットした人は多いのではないか。
当時すぐに「檸檬」ほか短編がたくさん含まれているこの文庫本を購入した。
そこに「器楽的幻覚」という、ごく短い作品が含まれていた。
梶井が自身の音楽体験を元にして書いたエッセイのような短編。
当時まだ珍しいフランス人ピアニストの演奏会に出かけ、演奏・空気感に没頭しつつも、少しの出来事で孤独感が押し寄せ、退廃的なムードになっていく様が語られる。(こういう暗いところが好きだった)
この梶井に衝撃を与えたフランス人ピアニストは、アンリ=ジル・マルシェックス(1894-1970)という奏者。
マルシェックスは戦前に何度も来日し、フランス・ピアノ音楽を初めて日本に紹介したとして評価されている。梶井基次郎が聴いた演奏会は1925年のことだそうだ。
当時の音楽界はドイツ音楽に偏っていたため、フランス音楽の響きに接したことのない人々がほとんどだったと思う。
その衝撃はどれほどのものだったろうか。
そしてこのコンサートに同席していた人物がもう一人、作曲家の大澤壽人である。
↓公式サイト
大澤壽人 煌めきの軌跡
https://osawa-project.org/history
大澤壽人はマルシェックスの演奏会で受けた衝撃がきっかけで、作曲を志すようになったそう。
大澤は当時の日本人としてずば抜けた作曲技術を持っており、1947年、日本で初とされるサクソフォン協奏曲を書いている。
伝統的な書法から無調まで通ったのち、大澤の創作意欲を刺激したのは「ジャズ」だった。
この作品は2020年に新日フィルハーモニー、上野耕平さんソリストで蘇演された。
今のところ楽譜、録音はパブリックではない。出版されないかな?
仕事をし始めると、どういうわけか小説を読む時間は減ってしまう。
好きだった梶井基次郎も遠い存在になっていたけど、間接的でも自分の分野とのつながりが見つかり、無性に嬉しくなった。
