《曼陀羅の華》は1913年作の交響詩である。
姉妹作《暗い扉》と並び、「死」を主題に据えた初期の大作に位置付けられている。
詩人・斎藤佳三の同名詩が着想の源とされ、同年11月22日に完成した。
初演は1914年12月6日、帝国劇場。東京フィルハーモニー会の演奏会で、山田自身がタクトを執った。
驚くべきは編成で、なんとテナー・サクソフォンが組み込まれている。
ピッコロ、フルート3、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、バスクラ、ファゴット2、そしてテナー・サックスという並び。
出版譜の販売情報でも“Bb Tenor Saxophone”がはっきり列記されている。つまり後年の加筆ではなく、作品仕様としての採用だ。
なぜテナーなのか。このサイトの解説ではこの曲を“豊かな印象主義的オーケストレーション(テナー・サクソフォンを含む)”と要約している。
柔らかな中低域でクラリネット群と金管(ホルン/トロンボーン)をつなぎ、ハープ、バスクラとも溶け込ませるような役回りは、テナーが適している。ArkivMusic
加えて、リヒャルト・シュトラウスの《死と変容》の影響がしばしば指摘される時期のようで、色彩のレイヤーを増やすアイディアを持ったのは自然といえるかもしれない。
当時の日本でサックスは、“軍楽系の実務”で鍛えられた楽器という側面が強い。また、ジャズのイメージも芽生えてきた頃だと思う。
《曼陀羅の華》においては、そのどちらでもなく、管弦楽の色としての採用にみえる。
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東京ハッスルコピー刊のスタディ・スコアが簡単に手に入ったので、いろいろ観察してみた。
なお初演のテナー奏者個人名は公開資料では未詳。おそらく軍楽隊関係の人物かなあ。